なぜ健康経営にカスハラ対策が必要なのか|企業が取り組むべき理由と実践ポイント

なぜ健康経営にカスハラ対策が必要なのか|企業が取り組むべき理由と実践ポイント

公開日:2026.02.03  
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カスタマーハラスメント(カスハラ)は、もはや一部の顧客対応部門だけの問題ではありません。カスハラによる従業員のメンタルヘルス不調は、企業全体の生産性低下や人材流出を引き起こし、経営課題として深刻化しています。一方で、従業員の健康を経営的視点から捉える「健康経営」の取り組みが広がる中、カスハラ対策を健康経営の枠組みに組み込む企業が増えています。本記事では、健康経営の観点からカスハラ対策がなぜ重要なのか、企業が取り組むべき理由と実践ポイントを解説します。

健康経営とは|従業員の健康を経営課題として捉える視点

健康経営とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。経済産業省によれば、企業理念に基づき従業員への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されています。

健康経営の取り組みは年々拡大しており、「健康経営優良法人2025」では大規模法人部門に3,400法人、中小規模法人部門に19,796法人が認定されました。この認定数は前年度から大幅に増加しており、健康経営への社会的関心の高まりがうかがえます。

健康経営が注目される背景

健康経営が注目される理由の一つは、従業員の健康状態が企業のパフォーマンスに直結するという認識が広まったことにあります。かつて従業員の健康管理は福利厚生の一環と捉えられてきましたが、現在では生産性向上や人材確保のための「投資」として位置づけられています。

特に、メンタルヘルス対策は健康経営において重要な位置を占めています。経済産業省の健康経営度調査では、「ストレス関連疾患の発生予防」を重要課題として掲げる企業が上位評価を獲得する傾向にあり、メンタルヘルスへの取り組みが健康経営の評価に大きく影響することが示されています。

※出典:経済産業省ホームページ「「健康経営優良法人2025」認定法人が決定しました」

カスハラが従業員の健康に与える影響

カスハラは、従業員の心身に深刻な影響を及ぼします。厚生労働省の調査によると、カスハラを経験した従業員の多くが「怒りや不満、不安を感じた」「仕事に対する意欲が減退した」と回答しています。さらに、カスハラを繰り返し経験した従業員の中には、「眠れなくなった」「通院したり服薬をした」といった深刻な健康被害を訴えるケースも報告されています。

カスハラによるメンタルヘルス不調のリスク

カスハラは単なる「その場での不快感」にとどまりません。継続的にカスハラを受けることで、従業員はストレスを蓄積し、うつ病などの精神疾患を発症するリスクが高まります。令和5年9月に改正された厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、カスハラに関連する項目が新たに追加されました。「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」ことが、労災認定の判断基準の一つとなっています。

特に注意すべきは、カスハラ被害を相談した従業員が適切なサポートを受けられなかった場合、二次的な被害が生じる可能性があるという点です。被害を報告・相談した際に軽視されたり、責任を転嫁されたりすることで、従業員の精神的負担はさらに増大します。

組織全体への波及効果

カスハラの影響は、被害を直接受けた従業員だけにとどまりません。職場でカスハラ被害が共有されると、他の従業員にも不安や恐怖が広がり、「自分もいつか同じ目に遭うかもしれない」という心理的負担から、組織全体のモチベーション低下を招く可能性があります。

このような状態が続けば、人材の離職につながるリスクが高まります。特に顧客対応業務の最前線で働く従業員の流出は、サービス品質の低下や採用コストの増加といった経営上の損失にも直結します。

※出典:厚生労働省ホームページ「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」

健康経営の視点から見たカスハラ対策の必要性

カスハラ対策は、健康経営を推進する上で避けて通れない課題です。その理由は、法的義務の観点と経営戦略の観点の両面から説明できます。

企業の安全配慮義務との関係

労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。この「生命、身体等の安全」には、精神的な健康(メンタルヘルス)も含まれると解釈されており、企業は従業員のメンタルヘルスを守る義務を負っています。

カスハラに対して企業が適切な対応をとらなかった場合、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。改正労働施策総合推進法では、カスハラ対策が事業主の「雇用管理上の措置義務」として義務化されることが定められており、企業には相談体制の整備や被害者への配慮、防止のための取り組みが求められています。

健康経営優良法人認定との関連

健康経営優良法人の認定においても、メンタルヘルス対策は重要な評価項目の一つです。ストレスチェックの実施や集団分析の活用、職場環境改善への取り組みなどが評価対象となっており、カスハラ対策を含むメンタルヘルスへの取り組みは、健康経営の実践において欠かせない要素となっています。

健康経営に積極的に取り組む企業は、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから社会的な評価を受けることができます。つまり、カスハラ対策を含む健康経営の推進は、企業ブランドの向上や人材確保にもつながる経営戦略として捉えることができるのです。

企業が実践すべきカスハラ対策のポイント

健康経営の観点からカスハラ対策を進めるためには、組織全体での取り組みが不可欠です。ここでは、企業が実践すべき対策のポイントを紹介します。

企業が実践すべきカスハラ対策のポイント

組織としての方針明確化と周知

まず重要なのは、企業としてカスハラを容認しない明確な方針を策定し、全社に周知することです。経営層がカスハラ対策にコミットする姿勢を示すことで、従業員は「会社が自分たちを守ってくれる」という安心感を持つことができます。

方針の策定にあたっては、カスハラの定義や判断基準を明確にすることが重要です。厚生労働省は、カスハラを「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。この定義を基に、自社の業種や業態に応じた具体的な基準を設けることが効果的です。

相談窓口と対応体制の整備

従業員がカスハラ被害を相談しやすい環境を整えることも重要な対策です。相談窓口を設置し、その存在を広く周知するとともに、相談者のプライバシーを保護し、相談したことを理由とした不利益な取り扱いをしないことを明確にしましょう。

また、カスハラが発生した際の対応フローを事前に整備しておくことで、現場での判断に迷いが生じることを防げます。エスカレーション基準の明確化や、複数名での対応体制の構築など、組織的に対応できる仕組みを整えることが求められます。

メンタルヘルスケアの仕組みづくり

カスハラ被害を受けた従業員へのメンタルヘルスケアは、健康経営において特に重要な取り組みです。産業医や産業カウンセラー、臨床心理士等の専門家による相談対応の体制を整備し、被害者が適切なケアを受けられるようにしましょう。

定期的なストレスチェックの実施も有効です。ストレスチェックの結果を集団分析し、高ストレス者が多い部署を特定することで、職場環境改善につなげることができます。健康経営度評価上位の企業では、ストレスチェック結果を組織改善の目標数値に設定したり、集団分析に基づいて必要な研修・セミナーを実施したりするなど、積極的な活用が行われています。

※出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

カスハラ対策と健康経営を両立させる取り組み

カスハラ対策を健康経営の取り組みと連動させることで、より効果的な施策を展開できます。ここでは、両者を統合的に推進するためのポイントを解説します。

従業員教育と意識醸成

カスハラ対策と健康経営を推進するためには、従業員への教育・研修が欠かせません。カスハラの判断基準や対応方法についての研修を定期的に実施し、全従業員が共通の認識を持って対応できるようにしましょう。

同時に、メンタルヘルスに関する教育も重要です。セルフケアの方法や、ストレスへの対処法を学ぶ機会を設けることで、従業員自身が自分の心身の状態に気づき、必要なときに助けを求められるようになります。

教育・研修のテーマ内容
カスハラの基礎知識 定義、判断基準、正当なクレームとの違い
対応スキル 初期対応、エスカレーション、記録の取り方
メンタルヘルス セルフケア、ストレス対処法、相談窓口の活用
ラインケア 部下の変化への気づき、声かけ、専門家への橋渡し

経営指標との連動

健康経営を推進する上では、取り組みの成果を可視化し、継続的に改善していくことが重要です。カスハラに関連する指標としては、カスハラの発生件数や相談件数の推移、対応完了までの期間などが考えられます。また、ストレスチェックの結果や従業員満足度調査の結果と組み合わせて分析することで、カスハラ対策がメンタルヘルスや職場環境にどのような影響を与えているかを把握できます。

これらの指標を定期的にモニタリングし、課題があれば施策を見直すというPDCAサイクルを回すことで、健康経営とカスハラ対策の両方を継続的に改善していくことが可能になります。

まとめ:カスハラ対策は健康経営の重要課題

カスハラ対策は、従業員のメンタルヘルスを守り、組織の持続的な成長を実現するための重要な経営課題です。健康経営の視点からカスハラ対策を捉えることで、法的義務を果たすだけでなく、従業員のエンゲージメント向上や人材確保、企業ブランドの向上といった経営上のメリットを得ることができます。

効果的なカスハラ対策の推進には、経営層のコミットメント、明確な方針の策定と周知、相談体制の整備、メンタルヘルスケアの仕組みづくり、そして継続的な改善が求められます。従業員が安心して働ける職場環境を整備することは、結果として顧客へのサービス品質向上にもつながります。

健康経営の取り組みの一環として、カスハラ対策を組織的に推進することで、従業員と企業の双方にとって持続可能な成長を実現しましょう。


関連記事:カスハラの基本的な定義や企業の責任についてさらに詳しく知りたい方は「カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?企業が知っておくべき基礎知識」をご覧ください。また、現場での具体的な対応方法については「現場管理者が知るべきカスハラの実態|従業員への影響とサポート方法」で解説しています。

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「コンタクトセンター カスタマーハラスメント対策推進企業」に認定

当社は、カスタマーハラスメント対策に主体的に取り組む企業として、日本コンタクトセンター協会による「コンタクトセンター カスタマーハラスメント対策推進企業認定制度」に認定されました。
働くすべての従業員が安心して働ける職場環境の整備と、お客様にとって健全で信頼できるコンタクトセンターの実現を目指します。

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