カスタマーサポートのKPI設定完全ガイド|効果的な指標選びと目標値の決め方

カスタマーサポートのKPI設定完全ガイド|効果的な指標選びと目標値の決め方

2025.10.30
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カスタマーサポート部門の成果を可視化し、継続的な改善を実現するためには、適切なKPI設定が欠かせません。しかし、どのような指標を選び、どのように目標値を定めるべきか悩まれている担当者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、カスタマーサポートにおけるKPI設定の基本的な考え方から、業種や組織規模に応じた指標の選び方、実践的な目標値の決め方まで詳しく解説します。KPI設定を適切に行うことで、チームのパフォーマンスを客観的に評価し、サービス品質の向上につながる可能性があります。カスタマーサポートのKPI設定に課題を感じている方は、ぜひ参考にしてください。

カスタマーサポートにおけるKPI設定の重要性

カスタマーサポート部門は企業と顧客をつなぐ重要な接点であり、その活動を数値で把握することは経営判断においても重要な意味を持ちます。

なぜKPI設定が必要なのか

カスタマーサポートの成果を正確に把握するためには、客観的な指標に基づく評価が重要です。明確な指標がない状態では、改善すべきポイントが曖昧になり、効果的な施策を打ち出すことが難しくなる傾向があります。

KPI設定を行うことで、以下のような効果が期待できます。
  • チーム全体の目標が明確になり、メンバーの行動指針となる

  • 客観的なデータに基づいた評価が可能になる

  • 課題の早期発見と迅速な対応がしやすくなる

  • 経営層への報告や予算確保の根拠として活用できる

ただし、KPIは設定しただけで自動的に成果が上がるものではなく、定期的な見直しと改善活動が必要です。

KPI設定で押さえるべき基本原則

効果的なKPI設定を行うためには、いくつかの基本原則を理解しておくことが重要です。

一般的に、優れたKPIは「SMART」の原則に沿って設計されると言われています。これは、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性がある)、Time-bound(期限が明確)の頭文字を取ったものです。

カスタマーサポートにおいても、この原則を適用することで、実効性の高いKPI設定が可能になります。たとえば「顧客満足度を向上させる」という目標は抽象的ですが、「初回応答時間を3か月以内に現状から20%短縮する」とすれば、具体的で測定可能な目標になります。

カスタマーサポートで設定すべき主要なKPI

カスタマーサポートにおけるKPIは多岐にわたりますが、自社の状況や目的に応じて適切な指標を選択することが大切です。

応答時間・解決時間に関する指標

顧客からの問い合わせに対する対応スピードは、顧客満足度に直結する重要な要素です。

初回応答時間(First Response Time)は、顧客が問い合わせをしてから最初の返信があるまでの時間を測定します。求められる応答スピードは業種や顧客層、利用チャネルによって大きく異なるため、自社の顧客の期待値を把握した上で適切な目標を設定することが重要です。

平均処理時間(Average Handling Time)は、一つの問い合わせを処理するのにかかる平均時間を示します。この指標が短いほど効率的に見えますが、あまりに短すぎる場合は顧客対応が不十分な可能性もあるため、品質とのバランスを考慮する必要があります。

一次解決率(First Contact Resolution)は、最初の対応で問題が解決した割合を表します。この指標が高いほど、顧客の手間が少なく、サポート部門の効率も良いと言えますが、複雑な問い合わせが多い場合は自然と低くなる傾向があります。

顧客満足度に関する指標

サポート品質を直接測る指標として、顧客満足度関連のKPIは欠かせません。

顧客満足度スコア(CSAT: Customer Satisfaction Score)は、対応後のアンケートなどで「満足度はいかがでしたか」という質問に対する回答を数値化したものです。5段階評価や10段階評価で測定されることが多く、比較的シンプルで導入しやすい指標です。

ネットプロモータースコア(NPS: Net Promoter Score)は、「このサービスを友人や同僚に勧める可能性はどのくらいですか」という質問で測定します。推奨者の割合から批判者の割合を引いた値で算出され、顧客ロイヤルティを測る指標として活用されています。

ただし、これらのスコアは回答率や回答者の属性によって結果が変動するケースがあるため、他の指標と組み合わせて総合的に評価することが望ましいです。

効率性・生産性に関する指標

限られたリソースで最大の成果を出すために、効率性を測る指標も重要です。

一人あたりの対応件数は、オペレーター一人が一定期間に処理した問い合わせ件数を示します。この指標が高いほど生産性が高いように見えますが、品質が犠牲になっていないか注意が必要です。

稼働率は、オペレーターが実際に顧客対応に費やしている時間の割合を表します。業種や業務内容によって適切な水準は異なりますが、あまりに高すぎると休憩や研修の時間が不足し、長期的にはパフォーマンスの低下につながる可能性があります。

一件あたりのコストは、問い合わせ処理にかかるコストを示す指標です。人件費や設備費などの総コストを対応件数で割ることで算出され、予算管理や投資判断の材料として活用できます。

チャネル別の指標

現代のカスタマーサポートでは、電話、メール、チャット、SNSなど複数のチャネルを運用しているケースが多く見られます。

チャネルごとに特性が異なるため、それぞれに適したKPI設定が必要です。たとえば、電話では通話時間や放棄率、チャットでは同時対応数や平均待機時間、メールでは応答時間や解決までのやり取り回数などが重要な指標となります。

チャネル別の指標を設定することで、どのチャネルが効率的か、どのチャネルに改善の余地があるかを把握しやすくなります。

効果的なKPI目標値の決め方

適切な目標値を設定することは、KPI設定において最も重要なステップの一つです。

ベンチマークと現状分析

目標値を設定する際は、まず自社の現状を正確に把握することから始めます。

過去数か月間のデータを集計し、各指標の平均値や傾向を分析します。また、業界のベンチマークデータがあれば参考にすることで、自社の立ち位置を客観的に理解できます。ただし、ベンチマークはあくまで参考値であり、企業規模や業種、顧客層、提供サービスの特性などによって適切な水準は大きく異なります。

自社のビジネスモデルや顧客の特性を十分に考慮した上で、実態に即した目標値を設定することが重要です。

段階的な目標設定

現実的で達成可能な目標を設定するためには、段階的なアプローチが効果的です。

いきなり理想的な数値を目標にすると、チームメンバーのモチベーション低下につながるケースがあります。まずは現状から無理のない範囲での改善を目指す短期目標を設定し、達成後に次のステップに進むという方法が効果的です。

たとえば、初回応答時間の改善を目指す場合、現状を分析した上で段階的に目標を設定していくアプローチが考えられます。このように小さな成功を積み重ねることで、チームは達成感を得ながら継続的な改善を進めることができます。

組織全体との整合性

カスタマーサポートのKPIは、部門内だけで完結するものではなく、企業全体の戦略や目標と連動している必要があります。

経営層が重視している指標や、他部門との連携が必要な目標については、特に慎重に設定することが重要です。部門ごとに異なる方向を向いてしまうと、組織全体としての成果が最大化されない可能性があります。

定期的に経営層や関連部門とコミュニケーションを取り、KPIの妥当性を確認することが望ましいです。

KPI設定時によくある課題と対処法

実際にKPI設定を行う際には、さまざまな課題に直面することがあります。

指標が多すぎて管理できない

あらゆる側面を測定しようとして、KPIの数が増えすぎてしまうことは多くの組織で見られる問題です。

実務上、一つのチームが効果的に管理できるKPIは3〜5個程度とされることが多く、それ以上になると、どの指標を優先すべきか曖昧になり、かえって成果が上がりにくくなる傾向があります。

対処法としては、現在設定しているKPIを重要度と測定のしやすさの二軸で評価し、本当に必要なものだけに絞り込むことが効果的です。その他の指標は、主要KPIを補完する副次的な指標として、定期的にモニタリングする程度にとどめるという方法もあります。

数値目標が優先され品質が低下する

KPI達成を重視するあまり、本来の目的である顧客満足度向上が置き去りになってしまうケースもあります。

たとえば、平均処理時間の短縮を過度に追求すると、オペレーターが十分な説明をせずに対応を終わらせてしまい、結果として顧客満足度が下がる可能性があります。

この問題を防ぐためには、効率性を測る指標と品質を測る指標をバランスよく設定することが重要です。また、KPIの数値だけでなく、顧客からのフィードバックや定性的な評価も定期的に確認し、総合的に判断する仕組みを作ることが望ましいです。

データ収集・分析の負担

KPI測定のためのデータ収集や分析には一定の工数が必要となるため、効率的な仕組みづくりが重要です。

可能な限り、使用しているカスタマーサポートシステムやCRMツールの機能を活用して、自動的にデータが集計される仕組みを構築することが効果的です。手作業での集計が必要な場合は、集計作業の負担と得られる情報の価値を比較し、本当に必要なデータかどうかを見直すことも検討すべきです。

また、データ分析の専門知識を持つメンバーを育成したり、必要に応じて外部のサポートを活用したりすることで、分析の質を高めながら負担を軽減できるケースがあります。

KPIを活用した継続的な改善サイクル

KPI設定は、設定して終わりではなく、継続的な改善活動のための出発点です。

PDCAサイクルの実践

KPIを効果的に活用するためには、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)のサイクルを回し続けることが大切です。

まず、設定したKPIに基づいて具体的な行動計画を立てます(Plan)。次に、計画に沿って実際に業務を遂行します(Do)。定期的にKPIの達成状況を確認し、目標との差異や傾向を分析します(Check)。そして、分析結果に基づいて改善策を実施します(Act)。

このサイクルを月次や四半期ごとに実施することで、継続的な改善が進みます。ただし、短期的な変動に一喜一憂せず、中長期的なトレンドを見ながら判断することが重要です。

チーム全体での共有と活用

KPIはマネージャーだけが把握するものではなく、チーム全体で共有し、日々の業務改善に活かすことが望ましいです。

定期的なミーティングでKPIの状況を共有し、達成できている点は称賛し、課題がある点は全員で解決策を考えるという文化を作ることが効果的です。また、個人レベルのKPIとチーム全体のKPIを明確に区別し、過度な個人間競争ではなく、協力して目標達成を目指す雰囲気を醸成することが大切です。

チームメンバーからのフィードバックを積極的に取り入れることで、より実態に即したKPI設定や改善策の立案が可能になります。

KPIの定期的な見直し

ビジネス環境や顧客ニーズは常に変化しているため、一度設定したKPIを永続的に使い続けることは適切ではありません。

定期的に、設定しているKPIが現在の事業戦略や顧客の期待に合致しているか見直すことが重要です。新しいサービスやチャネルの追加、組織体制の変更、市場環境の大きな変化などがあった場合は、それに合わせてKPIも調整する必要があります。

ただし、頻繁にKPIを変更すると、データの継続性が失われ、長期的な傾向を把握しにくくなるケースがあるため、変更する際は明確な理由と基準を持つことが重要です。

まとめ

カスタマーサポートにおけるKPI設定は、サービス品質の向上と業務効率化を実現するための重要な取り組みです。適切な指標を選び、現実的な目標値を設定することで、チーム全体が同じ方向を向いて改善活動を進めることができます。

KPI設定を成功させるためには、自社の状況や目的に合った指標を選択すること、段階的で達成可能な目標を設定すること、そして継続的に見直しと改善を行うことが大切です。効率性だけでなく品質とのバランスを保ち、数値だけでなく顧客の声にも耳を傾けながら、総合的に判断していくことが求められます。

KPI設定は一度で完璧にできるものではなく、試行錯誤を重ねながら自社に最適な形を見つけていくプロセスです。本記事で紹介した考え方や指標を参考にしながら、自社のカスタマーサポートに適したKPI設定に取り組んでいただければ幸いです。

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