経理業務のBPR成功のポイント:プロセス見直しの基本ステップ

経理業務のBPR成功のポイント:プロセス見直しの基本ステップ

2025.10.10
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経理業務の効率化は多くの企業が抱える共通課題です。月次決算の遅れ、手作業によるミス、属人化による業務停滞など、従来の経理プロセスには様々な問題が潜んでいます。こうした課題を根本的に解決する手法として注目されているのがBPR(Business Process Re-engineering)です。

本記事では、経理業務におけるBPR成功の基本ポイントと、プロセス見直しを効果的に進めるためのステップを詳しく解説します。正しいアプローチで経理BPRに取り組むことで、業務品質の向上と大幅な効率化を実現できるでしょう。

経理業務にBPRが必要な理由

現代の経理部門は、従来の業務プロセスでは対応しきれない課題に直面しています。

デジタル化の進展により、経理業務に求められるスピードと正確性は年々高まっています。月次決算の早期化、リアルタイムでの財務状況把握、コンプライアンス強化など、経理部門への期待は多様化しています。

一方で、多くの企業の経理業務は長年にわたって積み重ねられた複雑なプロセスが存在し、非効率な作業手順や重複業務が発生しているケースが少なくありません。こうした状況下で単純な業務改善だけでは限界がある場合に、抜本的なプロセス改革であるBPRが有効な選択肢となります。

経理BPRで解決できる主な課題

  • 月次決算処理の長期化

  • 手作業による入力ミスの頻発

  • 特定の担当者に依存する属人化業務

  • 部門間での情報共有不足

  • 監査対応での資料準備の負担

BPRと業務改善の違い

経理部門でのプロセス見直しを検討する際、BPRと従来の業務改善を混同してしまうケースがよく見られます。

業務改善のアプローチ

従来の業務改善は、既存のプロセスを前提として部分的な効率化を図る手法です。例えば、伝票入力の時間短縮や承認フローの一部簡素化などが該当します。一定の効果は期待できますが、根本的な課題解決には限界がある場合が多いとされています。

経理BPRのアプローチ

一方、経理BPRは既存プロセスにとらわれず、理想的な業務フローを再設計する手法です。「なぜこの作業が必要なのか」「この処理は本当に価値を生んでいるのか」という根本的な問いから始まり、プロセス全体を見直します。

【業務改善とBPRの比較例】

比較項目業務改善BPR
改善範囲 部分的 全体的
現状プロセス 前提とする ゼロベースで見直し
効果の大きさ 一般的に10-30%程度の向上 50%以上の大幅改善を目指す
実行期間 短期間 中長期間
変更への影響 小さい 大きい

経理BPR成功のための基本原則

経理業務のBPRを成功させるためには、以下の基本原則を理解し実践することが重要です。

利用者ニーズを中心とした視点

経理業務は社内の各部門や経営陣、外部の監査法人や金融機関など多様な関係者に情報を提供する機能です。それぞれのニーズを正確に把握し、真に価値のある業務に集中することがBPRの出発点となります。

月次決算資料の作成を例に取ると、経営陣が求めているのは迅速で正確な業績把握です。しかし、必要以上に詳細な分析資料の作成に時間をかけてしまい、本来重要な報告のタイミングに影響が出る場合があります。

プロセス全体の最適化

経理BPRでは、個別業務の効率化ではなく、プロセス全体での最適化を図ります。例えば、請求書処理を電子化することで、データ入力、照合、承認、支払処理までの一連の流れを統合的に改善します。

標準化と可視化の推進

属人化の解消と業務品質の向上のため、プロセスの標準化と可視化を徹底します。誰が担当しても同じ品質で業務を遂行できる仕組みづくりが、持続可能な改善の基盤となります。

プロセス見直しの基本ステップ

経理BPRを効果的に進めるための基本ステップを順序立てて説明します。

プロセス見直しの基本ステップ

ステップ1:現状プロセスの把握と分析

まず、現在の経理業務プロセスを詳細に把握します。業務フロー図を作成し、各工程での作業時間、担当者、使用システム、発生頻度を明確にします。

この段階では、業務の「見える化」が重要です。普段意識していない作業手順や、部門間での情報のやり取りも含めて、すべてのプロセスを洗い出します。

ステップ2:課題とボトルネックの特定

現状分析により明らかになった課題を整理します。時間がかかっている工程、エラーが発生しやすい作業、重複している業務などを特定し、優先度を設定します。

データに基づいた客観的な分析が重要で、関係者の主観的な意見だけでなく、実際の作業時間やエラー発生率などの定量的な指標を活用します。

ステップ3:理想プロセスの設計

課題分析を踏まえ、理想的な経理プロセスを設計します。この際、法的要件などの必須制約は維持しつつ、従来の慣習的な制約にとらわれず、「あるべき姿」から逆算して考えることが重要です。

デジタル技術の活用、アウトソーシングの検討、業務フローの簡素化など、様々な選択肢を検討し、最適な解決策を組み合わせます。

ステップ4:実行計画の策定

理想プロセスの実現に向けた具体的な実行計画を策定します。一般的には、システム導入、業務マニュアル整備、人材教育、組織変更などの施策を検討し、スケジュールと担当者を整理することが重要とされています。

リスクの洗い出しと対策の検討も重要な要素です。業務停止を避けるため、段階的な移行計画を立案することが推奨されます。

ステップ5:効果測定と継続改善

BPR実施後は、定期的な効果測定を行います。処理時間の短縮、業務品質の向上、コスト削減効果などを定量的に評価し、必要に応じて追加改善を実施します。

継続的な改善活動により、BPRの効果を持続させ、さらなる向上を図ります。

BPR実施時の注意点

経理BPRを成功させるために注意すべき重要なポイントを整理します。

段階的なアプローチの採用

経理業務は企業活動の基盤となる重要な機能であり、急激な変更は大きなリスクを伴います。そのため、段階的なアプローチを採用し、影響範囲を限定しながら改善を進めることが重要です。

例えば、全社的な会計システム変更を行う前に、特定の業務領域でのパイロット導入を実施し、効果と課題を検証します。

関係者の理解と協力の確保

経理BPRは多くの部門や関係者に影響を与えるため、事前の説明と理解獲得が不可欠です。変更による業務への影響、期待される効果、実施スケジュールなどを丁寧に説明し、協力を得る体制を整えます。

特に、長年の経験を持つベテラン社員からの理解と協力を得ることも、円滑な実施のために重要な要素の一つとなります。

法令遵守とリスク管理の徹底

経理業務は法的要件や会計基準に基づく業務が多いため、BPR実施時も法令遵守を徹底する必要があります。内部統制の観点からも、適切なチェック機能と承認プロセスの維持が重要です。

新しいプロセスの設計時は、監査法人や顧問税理士との事前相談を行い、法的リスクを回避する体制を整えます。

まとめ

経理業務のBPRは、単なる効率化を超えて、企業の競争力向上に直結する重要な取り組みです。成功のためには、現状の正確な把握から始まり、理想プロセスの設計、段階的な実施、継続的な改善という基本ステップを着実に実行することが不可欠です。

BPRと従来の業務改善の違いを理解し、プロセス全体の最適化を図ることで、大幅な効率向上と業務品質の改善を実現できます。ただし、経理業務の特性を考慮し、法令遵守とリスク管理を徹底しながら、関係者の理解と協力を得て進めることが重要です。