災害大国日本において、BCP(事業継続計画)の策定は企業の生命線となっています。しかし、多くの企業がBCPの重要性を認識しながらも、「何から始めればよいか分からない」「自社のリソースだけでは限界がある」といった課題に直面しています。
本記事では、BCP策定の具体的な7つのステップを詳しく解説するとともに、各段階でBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)をどのように活用すれば、効率的かつ実効性の高いBCPを構築できるかを紹介します。特に人的リソースが限られる中堅・中小企業においても、BPOパートナーとの連携により、大企業に劣らない強固な事業継続体制を実現する方法をお伝えします。BPOの専門性を活かすことで、コストを抑えながら確実な対策が可能です。
なぜ今、BCPの「実装」とBPO活用が重要なのか
内閣府の企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査によると、企業規模によってBCP策定率には差があり、多くの企業がBCPを策定していない、または策定途中の状況が続いています。さらに、計画を策定しただけで、実際の危機に直面した際に機能しないケースが散見されます。真に機能するBCPを構築するには、計画の「実装」と「運用」が不可欠です。
BCP実装における3つの課題
-
専門人材の不足
BCPの策定・運用には、リスク管理やITの専門知識が必要です。また、業界によっては法規制への対応も求められる場合があります。
-
初期投資とランニングコストの負担
バックアップシステムの構築、代替拠点の確保、定期的な訓練実施など、BCPの実装には相当な投資が必要となります。
-
継続的な見直しと改善の困難さ
事業環境の変化に応じてBCPを定期的に見直し、更新していく作業は、日常業務に追われる中で後回しになりがちです。
BPOがもたらすBCP強化のメリット
これらの課題に対して、BPOの活用は以下のような解決策を提供する可能性があります。
BCP対応の実績があるBPOパートナーであれば、そこから蓄積されたノウハウと専門性を活用できる可能性があります。また、災害対策設備や複数拠点を保有しているBPOパートナーを選定することで、自社で一から体制を構築する場合と比較して、初期投資を抑えられる可能性があります。
さらに、ISO22301(事業継続マネジメントシステム)などの国際規格認証を取得しているBPOパートナーであれば、一般的に標準化されたプロセスに基づくBCP支援が期待されます。これにより、属人化を防ぎ、安定した品質でのサービス提供につながる可能性があります。
BCP策定の7つのステップとBPO活用ポイント
効果的なBCPを策定するには、体系的なアプローチが必要です。ここでは、実務的な観点からBCPの策定から実装までを7つのステップに整理し、各段階でBPOをどのように活用できるかを具体的に示します。
ステップ1~3:現状分析とリスク評価フェーズ
ステップ1:基本方針の策定とプロジェクト体制構築
BCPプロジェクトの第一歩は、経営層のコミットメントを得て、基本方針を明確にすることです。「何のためにBCPを策定するのか」「どのレベルまでの事業継続を目指すのか」といった根本的な方針を定めます。
この段階でBPOコンサルタントを活用することで、業界のベストプラクティスに基づいた現実的な方針設定が可能になります。
ステップ2:事業影響度分析(BIA:Business Impact Analysis)の実施
ステップ3:リスクアセスメントと重要業務の選定
ステップ4~5:対策立案フェーズ
ステップ4:目標復旧時間(RTO)・目標復旧レベル(RLO)の設定
重要業務ごとに、どの程度の時間で、どのレベルまで復旧させるかの目標を設定します。これらの目標値は、業界特性、企業規模、顧客との契約内容などによって大きく異なるため、自社の状況に応じて適切に設定することが重要です。
| 業務カテゴリー | RTO設定の考え方 | RLO設定の考え方 | BPO活用の可能性 |
|---|---|---|---|
| 顧客対応窓口 | 顧客への影響を最小限に | 段階的な復旧計画を策定 | 高(代替拠点での対応可能) |
| 受発注処理 | 取引先との契約を考慮 | 優先順位に基づく処理 | 中(システム連携が必要) |
| 経理・決済 | 法的要求事項を遵守 | 完全復旧を目指す | 高(専門スキルの提供可能) |
| バックオフィス業務 | 他業務への影響を評価 | 必要最小限から段階的に | 高(標準化しやすい) |
ステップ5:具体的な対策と手順書の作成
設定した目標を達成するための具体的な対策を立案し、詳細な手順書を作成します。初動対応、対策本部の設置、従業員の安否確認、代替手段への切り替えなど、時系列で整理します。
BPOパートナーが持つ標準化された手順書テンプレートを活用することで、作成時間の短縮が期待できます。また、BPO先の業務については、パートナー側でBCP対応手順を準備してもらうことも可能です。
ステップ6~7:実装と継続的改善フェーズ
ステップ6:BPOパートナーとの連携体制構築
BCPを実効性のあるものにするため、BPOパートナーとの詳細な連携体制を構築します。
緊急時の連絡体制、権限委譲のルール、データ共有方法など、平時から明確に定めておく必要があります。また、SLA(サービス品質保証契約)にBCP関連の項目を盛り込み、災害時の対応レベルを契約上も担保することが重要です。
ステップ7:訓練実施と継続的改善
策定したBCPの実効性を検証するため、定期的な訓練を実施します。机上演習から始まり、機能別訓練、総合訓練へと段階的にレベルを上げていきます。
BPOパートナーがいる場合は、連携を含めた訓練の実施により連携体制の確認と改善点の発見につながります。訓練で発見された課題は、PDCAサイクルを回して継続的に改善していきます。
業界別に見るBCP構築のポイントとBPO活用領域
各業界によってBCPで重視すべきポイントは異なります。ここでは、業界特性に応じたBCP構築のポイントと、BPOが特に効果的な領域を解説します。
金融・保険業界における事業継続とBPO活用
金融業界では、一般的にシステムの安定性や顧客サービスの継続性が重視される傾向にあります。
BPO活用が効果的な領域
- コールセンター業務の複数拠点での分散運営
- 事務処理業務のバックアップ体制構築
- データ入力・照合業務の代替処理
特に顧客対応窓口については、BPOパートナーの複数拠点を活用することで、一つの拠点が被災しても他拠点で業務を継続できる体制を構築できます。
製造業界における事業継続とBPO活用
製造業では、サプライチェーンの維持と生産ラインの早期復旧が最重要課題となります。
BPO活用が効果的な領域
- 受発注処理業務
- 在庫管理・物流管理業務の継続性確保
- 設計図面・技術文書の管理
間接業務をBPO化することで、災害時でも事業運営に必要な機能を維持し、生産活動の早期再開を支援する体制の構築が期待できます。
小売・サービス業界における事業継続とBPO活用
小売・サービス業では、店舗運営の継続または代替販売チャネルの確保が重要です。
BPO活用が効果的な領域
- ECサイト運営・受注管理
- カスタマーサポート業務
- 在庫データ管理・商品マスター管理
実店舗が被災した場合でも、別拠点のEC倉庫が稼働していれば、ECチャネルを通じた販売継続が可能となるよう、オンライン業務のBPO化を進めることが有効です。
BPO活用によるBCP構築の投資対効果
BCPへの投資判断において、投資対効果は重要な検討要素の一つです。BPOを活用したBCP構築には、以下のような効果が期待できます。
コスト面でのメリット
-
初期投資の抑制
自社で代替拠点やバックアップシステムを構築する場合と比較して、BPOパートナーの既存インフラを活用することで、初期投資を大幅に削減できる可能性があります。
-
固定費の変動費化
自社で災害対策要員を常時確保する代わりに、必要な時に必要な分だけBPOサービスを利用することで、コストの最適化が図れます。
-
規模の経済によるコスト効率化
BPOパートナーは複数の企業にサービスを提供しているため、設備投資や人材育成コストを分散でき、結果として各企業の負担を軽減できます。
業務面でのメリット
-
専門性の確保
BCP構築・運用に関する専門知識を持つ人材を、BPOパートナーから提供してもらうことで、自社での人材育成コストと時間を削減できます。
-
業務の標準化・可視化
BPO導入に伴い業務プロセスの標準化が進むことで、属人化リスクが軽減され、BCPの実効性が向上します。
-
最新のベストプラクティスの導入
BPOパートナーの選定時に、BCP支援実績を持つ企業を選ぶことで、その経験を自社のBCP強化に活かすことも考えられます。
BCP導入を成功させる5つのポイント
BPOを活用したBCP構築を成功させるためには、以下の5つのポイントを押さえることが重要です。
1. パートナー企業のBCP体制を確認する
BPOパートナー選定時には、以下の点を必ず確認しましょう。
確認すべきポイント
- ISO22301(事業継続)やISO27001(情報セキュリティ)などの取得の有無
- 複数拠点の保有状況と各拠点のリスク評価
- 過去の災害対応実績と改善履歴
- データセンターの立地と災害対策設備
- 従業員のBCP訓練実施状況
2. 段階的な導入アプローチを採用する
すべての業務を一度にBPO化するのではなく、段階的にアプローチすることでリスクを最小化できます。
段階的導入のアプローチ
- 比較的定型化しやすい業務から開始
- 実績を積み重ねながら、徐々に対象業務を拡大
- 自社の状況に応じて対象範囲を検討
3. 明確なSLA(サービスレベル契約)を締結する
災害時の対応について、SLAおよび関連契約で以下の項目を明確に定めておくことが重要です。
SLAに含めるべき項目
- 災害時の業務再開に関する取り決め
- 緊急時に維持するサービスレベル
- データバックアップの頻度と保管方法
- 緊急時の連絡体制と優先順位
別途検討すべき項目
- BCP訓練への参加や協力体制
- 災害時の役割分担と責任範囲
4. 定期的な合同訓練を実施する
BPOパートナーも含めた訓練の実施を検討することで、連携体制の確認と改善点の発見が期待できます。
訓練の種類と目的(例)
- 机上演習:初期段階での手順確認
- 実動訓練:実際のシステムや体制の検証
- 総合訓練:全体的な連携の確認
訓練の頻度は、自社のリスク評価や業界特性に応じて適切に設定することが重要です。
5. 継続的なコミュニケーションを維持する
平時からBPOパートナーとの密なコミュニケーションを維持し、業務内容の変更や新たなリスクへの対応を共有することが重要です。
定期的な会議体を設置し、BCP関連の情報共有や改善提案を行う仕組みを構築しましょう。
まとめ
本記事では、BCP策定の7つのステップと、各段階でのBPO活用方法について詳しく解説しました。
BCPは単なる計画書の作成ではなく、実際の危機に機能する「生きた仕組み」として構築・運用することが重要です。しかし、多くの企業が人材不足、コスト負担、専門知識の欠如といった課題に直面しています。
これらの課題に対して、BPOの戦略的な活用は有効な解決策となります。BPOパートナーの専門性、複数拠点、標準化されたプロセスを活用することで、自社単独では実現困難な高度なBCP体制を、コストを抑えながら構築できる可能性があります。
重要なのは、信頼できるBPOパートナーの選定と、段階的な導入アプローチです。まずは自社の重要業務を明確にし、BPOで強化できる領域を特定することから始めることをお勧めします。
災害や危機はいつ発生するか分かりません。東日本大震災や熊本地震、近年の豪雨災害など、日本企業は常に自然災害のリスクと隣り合わせです。「いつか」ではなく「今」行動を起こすことが、企業の持続的成長と従業員・顧客の安全を守ることにつながります。BPOを活用したBCP強化で、不確実性の時代を生き抜く強靭な経営基盤を構築しましょう。
関連記事: BCPの基本的な概念や企業経営における重要性についてはこちらの記事も参考にしてください。
「BCP(事業継続計画)とは?BPOを活用した基本知識と企業経営における重要性を徹底解説」
基本的な理解を深めながら、自社の状況に最適な対策を検討することで、より効果的なBCP構築につながります。



