全国の自治体が直面するデジタル化の波の中で、住民からの問い合わせ対応は従来の電話中心から多様化したチャネルへの対応が求められています。総務省の「自治体DX推進計画」に基づき、多くの自治体がオンライン化を進める一方で、問い合わせ窓口の分散化や職員の負担増加といった新たな課題が浮上しています。こうした課題に対し、自治体専門のコンタクトセンター運営と自治体BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用が注目を集めています。特に効果的なコンタクトセンター運営には、専門性の高い自治体BPOサービスとの連携が不可欠となっており、多くの自治体がコンタクトセンター業務の自治体BPO化を検討しています。本記事では、自治体コンタクトセンターが抱える特有の課題から、自治体BPO導入による解決策、そして実際の成功事例まで、住民対応品質向上への実践的なアプローチを詳しく解説します。
自治体コンタクトセンターが抱える特有の課題
自治体のコンタクトセンター運営には、民間企業とは異なる独特な課題が存在します。これらの課題を理解することが、効果的な解決策を見つける第一歩となります。
多様化する問い合わせ内容への対応困難
主な問い合わせ分野
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税務関連(市民税、固定資産税、軽自動車税など)
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福祉関連(介護保険、障害者支援、生活保護など)
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教育関連(就学手続き、教育費支援、学校施設など)
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インフラ関連(道路、上下水道、ゴミ収集など)
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各種証明書発行・手続き関連
窓口分散による住民の混乱
多くの自治体では、部署ごとに異なる問い合わせ窓口が設置されており、住民にとって「どこに連絡すべきかわからない」という状況が発生する場合があります。この結果、住民が複数の部署に問い合わせを行う必要が生じ、手続きの煩雑さによる不便を感じるケースが見られます。
また、職員側も他部署の業務内容を十分に把握できていない場合があり、適切な部署への案内に時間がかかることもあります。
繁忙期における対応品質の不安定化
給付金申請や確定申告時期など、特定の時期に問い合わせが集中する自治体コンタクトセンターでは、通常の職員配置では対応しきれない状況が発生します。
この結果、電話がつながりにくくなったり、十分な説明ができないまま通話を終了せざるを得ないケースが増加し、住民サービスの品質低下につながっています。

24時間365日対応の必要性と現実的な課題
住民の生活スタイルの多様化に伴い、自治体サービスへの24時間対応ニーズが高まっています。しかし、現実的な運営面では多くの課題が存在しています。
住民ニーズの変化と対応時間の拡大要求
24時間対応が求められる理由
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共働き世帯の増加により、平日日中の問い合わせが困難
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シフト勤務や多様な勤務形態の増加
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子育て世代の夜間・早朝の問い合わせニーズ
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高齢者の家族を持つ働き世代からの休日対応要望
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緊急時・災害時の情報提供体制への期待
人員配置と予算制約の両立困難
24時間365日の対応体制を職員のみで構築することは、人件費の大幅な増加を伴います。特に夜間や休日の勤務に対する手当や、複数シフトでの職員確保は、限られた自治体予算では実現困難な場合が多いのが現状です。
さらに、深夜や早朝の問い合わせ件数は昼間と比較して少ないため、費用対効果の観点からも課題となっています。
セキュリティ対策と情報管理の複雑化
ベルシステム24の自治体BPOサービスによるコンタクトセンター運営の最適化
これらの課題に対する有効な解決策として、自治体BPOサービスの活用が注目されています。特に、250以上の自治体での豊富な実績を持つ当社ベルシステム24に委託することで、以下のような効果が期待できます。
専門オペレーターによる対応品質の向上
自治体コンタクトセンター運営に特化したBPO事業者では、自治体業務に精通した専門オペレーターを配置しています。例えば、ベルシステム24では担当者が1ヶ月間自治体に滞在して地域特性を理解し、それを基に現場オペレーターへの研修を実施するなど、きめ細かな対応が可能です。
継続的な研修体制により最新の制度変更にも迅速に対応でき、専門性の高い応対による住民サービスの質向上が期待できます。
オムニチャネル対応による利便性向上
実績のある自治体BPO事業者では、電話だけでなく、Webチャット、メール、FAQサイトなど複数のチャネルを統合したオムニチャネル対応を標準サービスとして提供しています。住民は自分の都合に合わせて適切な方法で問い合わせができ、利便性の向上が期待できます。
こうした総合的なサービス提供により、住民の利便性向上と自治体の業務効率化を同時に実現できることが、専門企業に自治体BPOを委託する重要なメリットの一つといえるでしょう。
柔軟な運営体制と費用最適化
実績豊富な自治体BPO事業者に委託することで、繁忙期には人員を増強し、閑散期には最小限の配置とする柔軟な運営が可能となります。これにより、年間を通じて安定した対応品質を維持しながら、運営コストの最適化が実現できます。
自治体コンタクトセンター運営の専門ノウハウを持つ自治体BPO企業であれば、適切な人員配置計画の提案や、応答率・完結率などの具体的なSLA(サービスレベル保証)の設定も可能です。固定的な人件費から変動費への転換により、自治体の予算管理もより効率的になります。
藤沢市コンタクトセンターに見る自治体BPO成功事例
神奈川県藤沢市では、ベルシステム24との協働により2023年10月に「藤沢市コンタクトセンター」を開設し、自治体BPOを活用したコンタクトセンター運営の先進的な取り組みを実践しています。
オムニチャネル化による問い合わせ窓口の一元化
藤沢市では、従来分散していた問い合わせ窓口をコンタクトセンターに一元化することで、住民の利便性を大幅に向上させました。電話、Webチャット、メール、FAQサイトを統合し、住民が時間や場所にとらわれることなく疑問を解決できる仕組みを構築しています。
このオムニチャネル化により、住民は「どこに問い合わせればよいかわからない」という従来の課題から解放され、コンタクトセンターという単一の窓口で全ての問い合わせに対応できるようになりました。
ナレッジ蓄積とFAQの継続的改善
ベルシステム24が運営するコンタクトセンターでは、受け付けた全ての問い合わせを体系的にナレッジとして蓄積し、継続的な改善サイクルを実現しています。
改善項目 | 従来の課題 | ナレッジ活用後の効果 |
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FAQ精度 | 内容が古く、住民ニーズと乖離 | よくある質問を分析し、リアルタイムで更新 |
解決率 | 住民が自己解決できず再問い合わせ | 必要な情報を的確に提供し、自己解決率向上 |
政策立案 | 住民ニーズの把握が困難 | 蓄積されたデータを基に施策立案の基礎資料として活用 |
対応品質 | オペレーターごとに回答内容にばらつき | 統一されたナレッジにより一貫性のある対応を実現 |
この取り組みにより、住民が自分で問題を解決できる割合が向上し、オペレーターや市職員への問い合わせ件数の削減につながっています。
職員の業務負担軽減と本来業務への集中
問い合わせ対応をコンタクトセンターに委託することで、市職員は問い合わせ対応に追われることなく、政策立案や専門性の高い業務に集中できるようになりました。この結果、行政サービス全体の質の向上と効率化が実現されています。
特に新制度導入時や緊急事態発生時においても、コンタクトセンターが住民対応の最前線を担うことで、職員はより重要な業務に専念できる体制が構築されています。
コスト削減と品質向上を両立する自治体BPO運営モデル
自治体における自治体BPO活用では、コスト削減と品質向上の両立が重要な課題となります。
運営コストの可視化と最適化
自治体BPO導入により、問い合わせ対応業務の外部委託化が進むことで、コスト構造の見直しが可能となります。職員の人件費、システム運用費、研修費用などを総合的に評価することで、より効率的な運営方法を検討できるようになります。
また、問い合わせ件数や処理時間の分析により、適正な人員配置と運営時間の検討が可能となり、コスト削減の検討が行えます。
品質管理指標の設定と継続的改善
自治体BPO事業者との契約では、応答率、完結率、顧客満足度などの具体的な品質指標(SLA:Service Level Agreement)の設定が検討されます。これらの指標を定期的にモニタリングし、改善点を特定することで、継続的な品質向上への取り組みが可能となります。
定量的な評価により、住民満足度の変化を客観的に測定でき、さらなる改善施策の立案にも活用できます。
長期的なパートナーシップによる価値創造
まとめ:自治体BPO活用で実現するコンタクトセンターの未来
自治体コンタクトセンターの課題解決には、単なる人員増強や設備投資だけでは限界があります。住民ニーズの多様化と職員の負担軽減を同時に実現するためには、専門性の高い自治体BPOサービスの活用が有効な選択肢の一つといえるでしょう。
藤沢市の事例に見られるように、オムニチャネル化による利便性向上、ナレッジ蓄積によるサービス品質向上、そして職員の業務負担軽減により、住民満足度と行政効率の両立が可能となります。
重要なのは、自治体BPO導入を単なるコスト削減手段として捉えるのではなく、住民対応品質向上のための戦略的投資として位置づけることです。適切なパートナー選択と継続的な改善により、自治体コンタクトセンターは住民と行政をつなぐ重要な接点として、さらなる価値を創造していくことができるでしょう。
今後、デジタル化がさらに進展する中で、コンタクトセンターにおける問い合わせ対応の効率化と品質向上が、住民サービス全体の向上につながることが期待されます。そのためにも、専門性とノウハウを持つ自治体BPO事業者との連携は、自治体にとって重要な選択肢となるはずです。