近年、企業の効率化戦略として注目を集めている「シェアードサービス」。多くの企業が業務の効率化やコスト削減を目的に、シェアードサービスの導入を検討しています。しかし、シェアードサービスの実施を進める際には様々な注意点があり、また全ての業務が適しているわけではありません。
本記事では、シェアードサービスの導入時に押さえておくべきポイントと、特に効果が期待できる推奨業務について解説します。成功させるためには、計画段階からの綿密な準備と導入業務の適切な選定が不可欠です。
シェアードサービスとは:基本概念とメリット
シェアードサービスとは、各部門や複数の拠点で個別に行われていた共通業務を一元化し、専門部署や専門会社に集約することで効率化を図る経営手法です。
主なメリットとしては、業務の標準化によるプロセス効率化、重複業務の削減によるコスト削減、集約によるスケールメリットの享受、専門性の向上による品質向上、各部門が本来の中核業務に集中できる環境の創出などが挙げられます。
特に複数拠点や部門を持つ組織では、重複業務の統合による効率化の可能性を検討する価値があるでしょう。導入を検討する際は、自社の組織構造や業務特性に合わせた最適なアプローチを選択することが重要です。
シェアードサービス導入前の重要な検討事項
シェアードサービスを導入する前には、以下の点について十分な検討が必要です。
現状分析と明確な目標設定
シェアードサービスの導入に際しては、まず現状の業務フローを詳細に分析し、どの業務がシェアードサービス化に適しているかを見極める必要があります。また、導入によって達成したい具体的な目標を明確に設定しましょう。
目標設定においては、コスト削減の目標値、処理時間の短縮目標、サービス品質の向上指標、投資対効果の評価方法などを検討することをお勧めします。これらの目標は可能な限り定量化し、導入前後で比較できる仕組みを整えることで、シェアードサービス導入の効果を適切に評価することができます。
組織文化と変化に対する準備
シェアードサービスの導入は、単なる業務変更ではなく、組織文化の変革も伴います。特に長年同じ方法で業務を行ってきた組織では、変化への抵抗が生じる可能性があります。
変化管理(チェンジマネジメント)の視点から、経営層からの明確なビジョンと方針の提示、現場担当者への丁寧な説明と理解促進、移行期間中のサポート体制の構築、成功事例の共有による動機付けなどが重要となります。
シェアードサービスの導入に適した推奨業務
全ての業務がシェアードサービス化に適しているわけではありません。以下に、特に効果が期待できる代表的な業務を紹介します。
経理・財務関連業務
経理・財務部門は、シェアードサービス化の代表的な対象部門です。標準化しやすく、集約によるスケールメリットも大きい業務が多いためです。
効果的なシェアードサービス化が可能な経理・財務業務
- 請求書処理・支払業務
- 経費精算処理
- 売掛金・買掛金管理
- 固定資産管理
- 財務報告書作成
これらの業務をシェアードサービスセンターに集約することで、処理の標準化と効率化が進み、コスト削減と処理時間の短縮を実現する企業が増えています。
人事・総務関連業務
人事・総務関連業務も、標準化可能な業務が多く含まれています。ただし、人事関連業務の中には、企業文化や部門特性によって最適なアプローチが異なる場合があります。採用面接や人材評価などの業務では、各部門の特性や現場の状況を考慮した運用方法を検討することが重要です。
シェアードサービス化に適した人事・総務業務
- 給与計算・社会保険手続き
- 福利厚生の管理・運営
- 採用業務の一部(書類選考など)
- 研修プログラムの運営
- 勤怠管理
- 備品管理
IT関連業務
IT部門も、シェアードサービス化の効果が高い部門です。IT業務のシェアードサービス化により、専門性の向上とコスト最適化の両立が可能になります。
- ヘルプデスク・ユーザーサポート
- インフラ管理・監視
- アプリケーション保守
- セキュリティ管理
- データセンター運用
これらのIT関連業務をシェアードサービス化することにより、専門性を活かした効率的な運用とコスト最適化を図ることができます。導入に際しては、それぞれの業務の特性や現場での運用方法を慎重に検討し、自社に適した形でのシェアードサービス化を進めることが求められます。

シェアードサービス導入時の注意点と課題
コミュニケーションの課題と対策
業務を集約するシェアードサービスモデルでは、従来の部門内完結型の業務フローとは異なり、部門間の連携が重要になります。このような組織変更に伴い、コミュニケーション方法も適応させる必要があります。
効果的なコミュニケーション対策として、明確なサービスレベル合意書(SLA)の策定、利用部門との定期的な情報共有、ITツールを活用した情報共有の円滑化、問題発生時の対応フローの明確化などを検討すべきでしょう。これらの対策を事前に検討し、関係者間で共有しておくことで、新しい業務体制へのスムーズな移行を支援することができます。
知識・ノウハウの継承と人材育成
シェアードサービスセンターを効果的に運営するためには、各部門から集約された業務知識やノウハウの共有と継承の仕組みを考慮することが重要です。
知識共有と人材育成においては、業務マニュアルの整備と定期的な更新、教育プログラムの体系化、経験者から新メンバーへの知識共有の促進(メンタリングなど)、部門間の理解を深める機会の創出などが重要となります。これらの施策は、組織の規模や文化、業務内容に応じて適切なものを選択し、組み合わせることで、シェアードサービスセンターの持続的な品質維持と向上を支援することができるでしょう。
段階的導入のアプローチ
シェアードサービスの導入計画を立てる際には、移行方法についても検討が必要です。多くの組織変革プロジェクトと同様に、一度に大規模な変更を行うよりも、段階的なアプローチを取ることで、リスクを管理しながら進められる可能性があります。
シェアードサービスの導入においては、リスクを最小化するために段階的なアプローチを検討する企業が多く見られます。小規模な範囲での試行から始めることで、実際の運用における課題や成功要因を把握し、その経験を活かしてより大きな範囲への展開を進めることが可能となります。このような慎重なアプローチにより、組織にとって最適な形でのシェアードサービス導入を実現できるでしょう。
シェアードサービス導入の成功要因と注意すべきポイント
成功要因
シェアードサービス導入の成功例では、以下のような共通要因が見られます。
- 徹底した事前準備による移行前の業務分析と標準化プロセスの確立
- ERPシステムなどの統合的なITインフラの整備
- 現地スタッフへの丁寧な説明・研修の実施
- リスクを管理しながらの段階的な業務移行
注意すべきポイント
一方、シェアードサービス導入時に注意すべきポイントも明確になっています。
業務の特性への配慮不足:各拠点や部門特有の業務要件を十分に分析せずに標準化を進めると、現場での混乱を招く可能性があります
移行スケジュールの設定:過度に楽観的なスケジュールは、品質低下や関係者の負担増加につながるリスクがあります
コミュニケーションの不足:関係者との十分な情報共有と意見交換を怠ると、組織全体での理解と協力を得ることが困難になります
これらの点に注意を払うことで、シェアードサービス導入における問題を軽減し、よりスムーズな移行を実現できる可能性が高まります。
まとめ:シェアードサービス導入の成功に向けて
シェアードサービスの導入は、企業にとって業務の効率化とコスト削減を実現するための有効な手段となります。
成功のためには、計画段階における現状業務の詳細な分析と適切な業務選定、明確で測定可能な目標設定、組織文化への配慮と変化管理の準備が重要です。また実行段階では、段階的なアプローチによるリスク管理、効果的なコミュニケーション体制の構築、知識・ノウハウの継承と人材育成に注力し、運用段階においては定期的な効果測定と改善、継続的な品質向上への取り組みを継続することが求められます。
これらの要素を総合的に検討し、自社のニーズや文化に合ったシェアードサービスを慎重に設計・導入することで、組織全体のパフォーマンス向上と持続可能な成長を実現することが可能になります。
シェアードサービスの導入は、適切に実施されることで企業の業務効率化と組織変革を促進する有効な手法として活用できます。長期的な視点を持ち、自社の状況に最適な形での導入を検討することが重要です。