自治体給付金業務の課題と解決策 〜DX推進がもたらす業務効率化と住民サービス向上〜

自治体給付金業務の課題と解決策 〜DX推進がもたらす業務効率化と住民サービス向上〜

2025.04.24
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近年、社会情勢の変化により、自治体の給付金業務は複雑化・多様化しています。新型コロナウイルス感染症に伴う特別定額給付金をはじめ、子育て支援や物価高騰対策など、給付金の種類は増加傾向にあります。しかし、申請受付から審査、支給に至るまでの業務量は、人員が限られる自治体にとって大きな課題となっています。この状況を改善する方策として、デジタル技術を活用した業務効率化が注目されています。オンライン申請システムやAI-OCR、クラウドサービスの導入により、業務プロセスを改善し、自治体職員の負担軽減と住民サービスの質的向上を目指すことができます。本稿では、自治体の給付金業務が抱える課題を分析するとともに、デジタル技術を活用した効率化の方向性と具体的な解決策をご紹介します。

給付金制度の概要と社会的役割

給付金制度は、国や地方自治体が国民や住民に対して行う経済的支援の仕組みです。所得保障、生活支援、特定の政策目的達成など様々な目的で実施され、現金給付だけでなくクーポンやポイント付与などの形態も含まれます。近年は社会環境の変化に伴い、給付金制度への期待と役割が拡大しています。

多様化する制度の現状

日本の社会保障制度における給付金は、多様な目的と対象者に応じて設計されています。子育て支援としての児童手当や児童扶養手当、低所得者向けの生活保護や住居確保給付金、高齢者・障害者向けの各種手当など、社会的支援の幅は広がっています。また、コロナ禍での特別定額給付金や物価高騰対策の支援金など、社会情勢に対応した臨時的な給付金も導入されています。

各制度の所管は厚生労働省、総務省、文部科学省など複数の省庁にわたり、自治体においても福祉課、子育て支援課、高齢者福祉課など、担当部署が分かれています。この制度の複雑さは、住民にとって「どの給付金を受けられるのか」「申請方法」を理解することを難しくしています。また、自治体職員にとっても、多様な給付金制度の運用管理は大きな業務負担となっています。

国民生活を支える給付金の重要性

給付金制度は、国民生活のセーフティネットとして欠かせない存在です。特に経済的困難に直面している世帯にとって、生活を維持するための重要な収入源となっています。

例えば、生活保護は最低限の生活水準を保障する「最後の砦」として機能し、児童手当や児童扶養手当は子育て世帯の経済的負担を軽減しています。また、給付金は単なる経済的支援を超えた意義も持っています。社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)の観点からは、経済的理由で社会から排除されることを防ぎ、すべての国民が尊厳を持って生活できる環境を整える役割を担っています。マクロ経済の視点からも、給付金は消費を促進し経済を活性化させる効果があります。

2020年のコロナ禍における特別定額給付金は、感染症による経済的打撃を緩和し、個人消費の落ち込みを一定程度防いだと評価されています。また、地域限定の給付金やクーポンは、地域経済の活性化にも寄与しています。

近年の社会情勢と給付金ニーズの変化

社会情勢の変化に伴い、給付金に対するニーズも大きく変化しています。新型コロナウイルス感染症の拡大は、緊急時における給付業務の効率化と迅速な処理の必要性を浮き彫りにしました。特別定額給付金や持続化給付金などの大規模な給付事業の経験は、危機時における素早い経済支援の重要性と、それを可能にするためのデジタルインフラ整備の必要性を浮き彫りにしました。

少子高齢化の進行も給付金制度に変化をもたらしています。高齢者人口の増加により、年金や介護関連の給付金の需要が増大する一方、少子化対策として子育て世帯への支援強化も進んでいます。2022年の「出産・子育て応援給付金」などは、少子化という社会課題に対応した給付金の例です。

雇用形態の多様化と所得格差の拡大も、給付金ニーズの変化をもたらしています。非正規雇用の増加や単身世帯の増加により、一時的な経済支援だけでなく、就労支援と連動した給付金制度の必要性が高まっています。

さらに、デジタル化の進展も給付金制度に変革をもたらしています。マイナンバー制度の導入により、より効率的で正確な給付対象者の判定が可能になりつつあります。また、オンライン申請やデジタル決済の普及により、給付金の申請から受給までのプロセスが簡略化される可能性も高まっています。

このように、社会情勢の変化に応じて給付金制度へのニーズも複雑化・多様化しており、より効果的な制度設計と、それを支えるデジタル基盤の整備が求められています。

自治体が直面する給付金支給業務の課題

近年、自治体の給付金支給業務は、社会情勢の変化に伴い大きな転換期を迎えています。従来の福祉関連給付金に加え、物価高騰対策など社会経済の変動に対応する臨時的な給付金事業が増加しています。これにより、自治体は業務量の増加と複雑化という課題に直面しています。これらの課題を適切に分析し、対応策を検討することが、効率的な給付金業務と住民サービスの向上につながります。

申請から支給までの業務フロー複雑化

給付金支給業務は一見シンプルに思えますが、実際には非常に複雑なプロセスが存在します。対象者要件の設定段階から始まり、申請受付、資格審査、支給決定、振込処理、不備対応など、複数の工程が連なっています。さらに、給付金の種類によって要件が異なるため、業務設計も一から行う必要があります。特に紙申請と電子申請の二重管理や、部署間連携の煩雑さが業務フローを複雑化させる大きな要因となっています。

自治体職員の人手不足による業務負担の増大

給付金事業は通常の業務に加えて突発的に発生することが多く、自治体職員の負担増加は深刻な問題です。特に審査業務や問い合わせ対応は専門性が求められるため、単純な人員増加では対応できないケースが多発しています。繁忙期には職員の残業が常態化し、通常業務にも支障をきたすことがあります。さらに、正規職員の減少と非正規雇用の増加という自治体の構造的課題も、業務負担増大に拍車をかけています。

迅速な給付と正確な審査のバランス

住民の立場からは「一刻も早く支給してほしい」という切実な要望がある一方、自治体には公平・正確な審査が求められます。この相反する要求のバランスをとることは大きな課題です。特に支給までに時間がかかると、進捗確認の問い合わせが増加し、さらに業務が圧迫されるという悪循環に陥りやすくなります。また、不正受給防止のための厳格な審査体制構築も、スピードと正確性のバランスを取る上での重要な検討課題となっています。

特別定額給付金事業から得られた課題と改善点

特別定額給付金事業では、多くの自治体が初めての大規模オンライン申請に直面し、システム対応や事務処理に課題が生じました。従来の行政手続きとは異なる規模と速度が求められる中、各自治体は迅速な給付金支給と住民サービスの両立に取り組みました。この経験を通じて、自治体は以下のような重要な知見を得ました。

・デジタル技術の活用における課題
・緊急時の柔軟な業務対応の必要性
・オンラインシステムの事前準備と拡張性の重要性

結果として、多くの自治体がデジタル化や業務効率化の重要性を改めて認識し、今後の行政サービス改善に向けた取り組みの契機となりました。

給付金業務の効率化ポイントとデジタル技術の活用

給付金業務における課題解決の鍵は、適切なデジタル技術の活用にあります。マイナンバー制度の活用、オンライン申請の推進、AI・RPAの導入など、様々な技術やアプローチが効率化と住民サービス向上に貢献しています。ここでは、給付金業務のデジタル化に関する最新動向と、その効果的な活用方法について解説します。

オンライン申請システムの導入状況

給付金のオンライン申請は、住民の利便性向上と自治体の業務効率化の両面から注目されています。先進自治体では30%以上の電子申請率を達成している事例もありますが、全国平均ではまだ低水準にとどまっています。申請処理時間の大幅短縮と不備率低減を実現した自治体も出てきており、成功事例が徐々に増えています。

導入の障壁としては、システム構築コスト、操作性の問題、高齢者等へのデジタルデバイド対策などが挙げられます。特に重要なのは、単なる紙の電子化ではなく、申請フローの抜本的な見直しを伴うデジタル化であり、これにより効率化が実現します。

AIとRPAを活用した審査業務の効率化可能性

AI技術とRPAの活用は給付金業務の効率化に大きな可能性を開いています。例えば、AI-OCRによる紙申請書のデジタル化は、従来の手作業入力と比較して大幅な処理速度向上を実現できます。また、定型的な審査作業のRPA化により、24時間稼働の審査体制も可能になります。

先進事例では、AIによる画像認識技術を活用して本人確認書類の真偽判定を自動化したり、過去のデータをもとに申請内容の異常値を検出したりする取り組みも始まっています。不正申請検知など高度な判断への人工知能の活用も検討されており、これらの技術は人的ミスの削減と処理速度の向上に大きく貢献し、職員は判断が難しいケースに集中できるようになります。

クラウドサービス導入による業務標準化の効果

給付金業務へのクラウドサービス導入は、迅速な立ち上げと業務標準化の両面で効果を発揮します。パッケージ化されたサービスを利用することで、システム構築期間を大幅に短縮できるだけでなく、ベストプラクティスを取り入れた標準的な業務フローを実現できます。

また、クラウド環境によりテレワークを含む柔軟な働き方が可能になり、災害時などの業務継続性も向上します。特に近年の予測困難な災害や感染症対策を考慮すると、業務継続性の確保は重要な要素です。さらに、APIによる既存システムとの連携や、データの一元管理による情報共有の円滑化なども大きなメリットです。

自治体DX推進における給付金業務の位置づけ

総務省の「自治体DX推進計画」では、給付金業務は住民サービスに直接関わる重要な分野として認識されています。デジタル技術の活用により、「簡素化・効率化」を目指す行政手続きの中で、給付金業務は具体的な改善が期待される領域の一つです。
一部の自治体では、給付金業務のデジタル化をデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の先行事例として捉え、他の行政サービスへの応用を検討しています。これにより、住民が最も身近に感じる行政サービスにおいて、デジタル化の利便性を実感できる可能性があります。
同時に、デジタル化の前提となる業務プロセスの再構築(BPR)の重要性も認識され、効率的な行政サービス提供に向けた取り組みが進められています。

マイナンバー制度との連携の現状

マイナンバー制度は給付金業務の効率化に大きな可能性を秘めています。所得・資産情報との連携による資格審査の自動化、添付書類の省略、マイナポータルを活用したワンストップ申請など、様々な活用シーンが想定されます。しかし実際には、マイナンバーカードの普及率や情報連携システムの整備状況など、自治体によって活用レベルに差があるのが現状です。

今後は特に情報連携の範囲拡大とマイナポータルの機能強化により、給付金業務の効率化が進むことが期待されています。特にマイナポータルとAPI連携した給付金申請システムの普及は、今後のデジタル化推進の鍵となるでしょう。

ベルシステム24の自治体向け給付金支給サービスと導入事例

当社ベルシステム24では、自治体の給付金支給業務における様々な課題を解決するため、給付金支援サービスを提供しています。住民の利便性向上と自治体職員の効率化による工数削減を同時に実現するこのサービスについて、その特徴と導入事例をご紹介します。

サービスの概要と特徴

当社の給付金支援サービスは、給付金業務の申請受付から支給までをトータルでサポートする包括的なソリューションです。主な特徴は以下の通りです。

  • 電子申請と紙申請の両方に対応:QRコード対応により紙申請からの電子化もスムーズ

  • システム・コールセンター・事務処理の一体運営:住民からの問い合わせ対応から審査業務まで一貫して対応

  • 柔軟なカスタマイズ:自治体ごとの給付条件や業務フローに合わせたシステム設計

  • 短期間での導入:最短1ヵ月でのサービス導入が可能

  • ポータルサイト機能:申請者自身が審査状況を確認できる仕組み

これらの特徴により、「対象者要件が煩雑で業務設計・運用の工数がかかる」「早期に給付開始できるか不安」「繁忙期の人的リソース不足」「問い合わせが増加する」といった自治体の課題を解決します。

導入実績

2021年12月末のサービス提供開始から、全国で複数の自治体にご導入いただいています。特に北海道、関東、関西、九州の各地域で活用されており、複数年にわたり継続してご利用いただいている自治体も多数あります。これまでの実績として、のべ451億円という膨大な給付金管理を行ってきました。電子申請の促進と自動審査の導入により、業務効率化と住民サービス向上の両立を実現しています。

東京都S区における導入事例 東京都S区では、「価格高騰重点支援給付金業務」の運営をベルシステム24が受託しました。

◆背景と目的◆
国による低所得者への給付および定額減税事業に関連し、物価高に最も切実に苦しんでいる低所得者に迅速に支援を届けるため、オンライン申請をはじめとする申請の受付や審査等にかかる体制をいち早く整える必要がありました。

◆評価ポイント◆
- 使いやすい電子申請システム:区民、審査オペレーター、職員の全員が使いやすいシステム設計
- 情報の一元管理:対話記録の一元管理による円滑な情報共有
- 柔軟な審査体制:類似業務実績に基づいた生産性・品質が担保された体制
- 連携強化:申請書処理とコールセンターが同じ場所にあることによる対応速度向上

◆導入効果◆
- 電子申請利用率が対象者数の約35%に達成
- 申請数に対する電子申請と紙申請の割合がおよそ5:5
- 住民メリットとして「記入不要」「進捗確認可能」「印刷物添付不要」
- 職員メリットとして「書類保管不要」「システム上で申請確認可能」など

自治体におけるサービス導入の効果

サービスの導入により、自治体では以下のような効果が期待できます。

1. 住民満足度の向上:オンライン申請と進捗確認機能により、住民の利便性が大幅に向上
2. 業務効率の飛躍的向上:AI-OCRの活用や電子申請の促進により、審査工数を削減
3. 迅速な給付:自動審査と効率的な業務フローにより、給付までの期間を短縮
4. 透明性の確保:申請から給付までの状況が可視化され、住民と自治体双方で確認可能
5. 職員の負担軽減:問い合わせ対応や審査業務の外部委託により、職員の本来業務に集中できる環境を実現

当社のサービスは、自治体の業務効率化と住民サービス向上の両立を支援し、給付金業務のデジタル変革を強力にバックアップします。
※さらに詳細な事例や導入効果については、資料ダウンロードにてご確認いただけます。

まとめ

自治体における給付金業務の効率化は、複雑な業務フローや人手不足、緊急時対応の経験から強く求められています。これらの自治体が抱える課題を解決するためには、戦略的なデジタル技術の導入が鍵となります。オンライン申請システムやAI-OCR、RPAの活用によって、自治体の給付金業務の効率化と正確性の向上が期待されます。

また、クラウドサービスの導入により、業務の標準化が進むことで、自治体全体でのDX推進が加速するでしょう。これによって、住民サービスの質も向上し、より迅速かつ効率的な給付金支給が実現します。

これから給付金業務の効率化に取り組む自治体担当者は、まず現状の業務フローを分析し、どの部分から改善すべきかの優先順位付けを行うことが重要です。特に申請受付や審査プロセスなど、ボトルネックとなっている部分から効率化を進めることで、全体の業務改善効果が高まります。

そして、具体的なデジタルツールやBPOサービスの導入検討を通じて、自治体の特性に合った給付金業務の効率化モデルを構築していくことが、将来的な住民サービス向上と職員負担軽減の両立につながるでしょう。